事業再生法律お悩み相談 実務に効く! ツールとしての法律(事業再生及びそれに関連する法律のトリセツ)

事業再生に関連する法律お悩み相談、裁判例などを使って具体的かつわかりやすくご説明します(法律に詳しい方には易しすぎるかもしれません)。

更生債権の範囲(最判H25.11.13 東京高判H25.5.17)

少し専門的な内容になりますが、会社更生手続きの更生債権の範囲に含まれるか否かが争われた裁判を2件を紹介します。

 

まず、最判H25.11.13です。

これは、Xが更生会社相手に更生手続開始決定前に訴訟提起をしていた更生債権に関する訴訟が、更生手続開始決定により(正確には保全管理命令により)中断し、訴訟の対象となっていた更生債権は、厚生手続の中で確定した事案で、当該訴訟の訴訟費用請求権が、更生債権となるか否かが争われた事案です。なお、Xは、訴訟費用請求間は更生債権にならないとして、更生債権届出に訴訟費用請求権は載せていなかったようです。

判決は「訴訟の当事者に生じた訴訟費用については、民訴法に規定する要件及び手続に従って相手方当事者に対する請求権が発生するものとされている以上、その具体的な内容が更生手続開始後に当該訴訟が完結してから確定されることになるとしても、更生手続開始前にその訴訟費用が生じていれば、当該請求権の発生の基礎となる事実関係はその更生手続開始前に発生しているということができる。そうすると、当該請求権は、「更生手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」(会社更生法2条8項)に当たるものというべきである。
 したがって、更生債権に関する訴訟が更生手続開始前に係属した場合において、当該訴訟が会社更生法156条又は158条の規定により受継されることなく終了したときは、当該訴訟に係る訴訟費用請求権は、更生債権に当たると解するのが相当である。」として、Xの請求を認めませんでした。つまり、更生債権に該当すると判示しました。

しかしそうすると、訴訟が中断した状態で終了しなかった場合、訴訟費用はどうなるのか、管財人はどのような認否をすればいいのかなど、実務的にはよくわからないことが多くなります。結論は妥当としても、実務的には検討すべき事項が多い判断と言えると考えます。

 

次に東京高判H25.5.17です。

これは、独禁法上も課徴金債権が問題となったもので、公正取引委員会と更生会社の間で争われました。判決は、傍論ではありますが、「独占禁止法上の課徴金債権についての債権発生の基本的構成要件に該当する事実とは、独占禁止法7条の2第1項所定の違反行為に係る事実であると解するのが、明確かつ文理にかなうもので、相当である。したがって、課徴金の対象となる独占禁止法に違反する行為が更生手続開始前にされた場合には、課徴金納付命令が更生手続開始後にされたとしても、更生手続開始前の原因に基づく請求権に該当するものというべきである。」としたうえで、債権届出がされていないことから、「平成22年7月1日に確定した更生計画認可の決定により、本件課徴金債権につきその責任を免れたものというべきである。」としました。

このあたりが、法律の難しいところであり、面白いところです!

無償行為否認に、債務超過要件は必要か?(最判H29.11.16)

今回は少し専門的な話です。

倒産法における、否認行為の累計として、無償行為否認があります。

簡単に言えば、倒産間際に行われた贈与などを、法的手続きに入った後に効力を否定するものです。ところで、贈与する際に債務超過であったとか、贈与することによって債務超過になったという要件が必要か否かが争われた事件は、最判H29.11.16です。

この裁判の場合の無償行為は、贈与でなく、連帯保証でした。民事再生開始決定6か月ほど前に、再生債務者が関係会社の債務の連帯保証をしたことが、無償行為否認となるかどうかが争われました。

少し長いですが引用します。

民事再生法127条3項は、再生債務者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為等を否認することができるものとし、同項に基づく否認権行使について、対象となる行為の内容及び時期を定めるところ、同項には、再生債務者が上記行為の時に債務超過であること又は上記行為により債務超過になることを要件とすることをうかがわせる文言はない。そして、同項の趣旨は、その否認の対象である再生債務者の行為が対価を伴わないものであって再生債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため、専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあると解するのが相当である。そうすると、同項所定の要件に加えて、再生債務者がその否認の対象となる行為の時に債務超過であること又はその行為により債務超過になることを要するものとすることは、同項の趣旨に沿うものとはいい難い。
 したがって、再生債務者が無償行為等の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは、民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと解するのが相当である。

つまり、債務超過等の要件は不要と判示をしました。

無償行為をするような状況になっている時には、だいたい債務超過にもなっていますので、このような論点が問題となるケースはまれです。しかし、やはり問題になることはあるわけで、このあたりが、法律の面白いところでもあり、難しいところです!

 

PS.なお、おそらく同じ再生債務者の事件で、連帯保証でなく、担保のために手形を振り出したこと(=代表者の債務の担保として会社が代表者債務額の手形を振り出しました)が無償行為否認の対象になるとされています(東京地判H28.6.6)。

私的整理中の権利行使について(東京地裁H30.2.13)

私的整理は、対象となる債権者全員の合意がなければ成立しません。

そこが私的整理の難しいところです。

ところで、私的整理中に、個別に権利行使をすることは許されるでしょうか。

これは、基本的には許されると考えられています。但し、公序良俗に反しないこと、権利濫用にならないことといった制限はかかります。

 

特に、権利濫用になるかどうかは、争われることが多いです。

例えば、東京地判H10.10.29は、債権者の個別の権利行使を権利濫用として否定しました。やや特殊な事例かもしれませんが、弁護士が関与して、かなり私的整理を進めた状態だったことから、やや救済的な判断になったものと考えられます。背景はわからないところもありますが、関与した弁護士がやや強引に処理を進めたのかもしれません。

 

一方で、東京地裁H30.2.13は、私的整理中における債権回収のための訴訟提起は、権利の乱用とは言えないとしました。具体的には「私的整理は、関係者間の合意に基づいて行われるものであり、私的整理に加わって債権の満足を得るか、私的整理を加わらずに債権の満足を得るかは、債権者が自由に選択できるのであって、いったん私的整理に加わっておきながら後になって(配当額に不満があるなどの事情から)私的整理の枠外で債権の満足を得るような場合は別論として、原則として、私的整理に加わらずに債権者が満足を得るために債務者に対し訴訟を提起することが、権利の濫用であると評価されるものではない。」と判示しました。

こちらは、私的整理が進んでいるという背景もなく、非常にシンプルに判断をしました。個人的にはこちらのほうが、しっくりきます。

 

このあたりが、法律の面白いところでもあり難しいところです!

 

 

債権放棄が税務上認められる場合とは(最判H16.12.24)

私的整理、法的処理を問わず、債権者側の債権放棄が税務上の損金に算入できるかは、大変重要な論点です。できない場合は、できるスキームを債権者側から要求されることもありますし、債務者側としては、当然、そのようや要求が出ることを前提に予めスキームを組むことになります。

この点、法人税基本通達9-6-1(第1款 金銭債権の貸倒れ|国税庁 (nta.go.jp)

や9-4-1、9-4-2(第1款 寄附金の範囲等|国税庁 (nta.go.jp))が重要になります。

子会社や関連会社などについて、債権放棄をすることは時々見られますが、簡単には税務上の損金算入は認められないと考えておいたほうがいいです。

 

この点が問題となった最高裁判例として、いわゆる興銀事件があります(最判H16.12.24)。これは興銀が、母体行として他の銀行より多くの債権放棄を税務上の損金に算入したことの適否が問題となったものです。

 最高裁は「法人の各事業年度の所得の金額の計算において、金銭債権の貸倒損失を法人税法22条3項3号にいう『当該事業年度の損失の額』として当該事業年度の損金の額に算入するためには、当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解される。そして、その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならないが、そのことは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきものである。」と判示しました。これでもまだ抽象的ですが、今後はこれによって判断しなければなりません。

なお、この判決は、結論としては納税者を勝たせています。理由は「Xが本件債権について非母体金融機関に対して債権額に応じた損失の平等負担を主張することは、それが前記債権譲渡担保契約に係る被担保債権に含まれているかどうかを問わず、平成8年3月末までの間に社会通念上不可能となっており、当時のA社の資産等の状況からすると、本件債権の全額が回収不能であることは客観的に明らかとなっていたというべきである。」からというものです。「社会通念上不可能となっており」というのは、あいまいではありますが、このような内容の判決としてことは大変意義が深いと感じています。法律に書いてないし、契約もないけど、こうするしかないということは、時々あります。そのような事例でも一定の範囲で認められる余地があるということです。

 

このような点が、法律の難しいところでもあり、面白いところです!!

いわゆる私的整理手続きにおける、債務免除等の要請行為は、「支払停止」にあたるか

今回は、やや専門的な内容についてです。

 

民事再生や会社更生などの法的整理に対立する概念として、私的整理という概念があります。法的整理が裁判所の関与(監督)もと、債権カットをするに対し、私的整理は、裁判所が関与しない状況で、金融債権のみの債権カットやリスケをすることを指すものです(私的整理は、明確に定義が定められているものではないため、対象債権者などは、ケースバイケースです)。

 

最近では、法的整理をしてしまうと事業が著しく毀損してしまうため、私的整理を中心に処理がされています。

私的整理を進める場合、金融機関に、債権元本の支払いを止めること、リスケすること又は債務免除を要請する旨の通知を行うことになります。これが、破産法、民事再生法あるいは銀行取引約定書などの「支払停止」にあたるかが問題となることが時々あります。該当すれば。、銀行は預金の払い戻しを拒否できます。また、その後に偏波弁済を受けた場合、否認(事後的に効力が否定されること)される可能性が出てきます。

 

いくつか裁判例があり、否定したものとして東京地決H23.8.15、東京地決H23.11.245、肯定したものとして大阪地判H29.3.22があります。

 

結論としては、事案(状況)によるものと考えています。判示内容も、いずれも状況を分析して結論を導き出しているように考えます。

いずれも地裁の判断であり、学者の意見も色々分かれているところですので。軽々には申し上げられませんが、個人的には、リスケのみの要請であれば「支払停止」には当たらない、債務免除まで含まれた要請であれば、その時点で債務超過であり債務免除が確実な状況であれば「支払停止」に当たるが、債務免除が確実とまでは言えない場合は当たらないというところかと考えております。

 

債務免除やリスケを依頼するという、切迫した状況で、難しい判断が求められる中、このように解釈が定まっていないのは、弁護士泣かせといえます。

 

このあたりが。法律の面白いところでもあり、難しいところです。

民事再生した企業の債務の連帯保証の時効は何年???(東京地判H26.7.28 )

多くの中小企業において、代表者が、会社債務の連帯保証をしています。最近、そのような傾向に歯止めをかける取り組みもされていますが、改まっていないのが現状です。

そのような企業が破産や民事再生をした場合、保証債務はどうなるのでしょうか?

例えば会社の破産手続きが終われば、連帯保証もお役御免となるのでしょうか。あるいは民事再生の再生計画の認可決定により会社債務がカットされた場合、連帯保証人の責任もカットされるのでしょうか?

答えは、いずれもノーです。つまり保証人の責任は従前のままです。

何故でしょうか?

ある意味で当然です。そのように会社が倒産した時のために連帯保証をしてもらっていたのであり、会社債務がカットされたからといって連帯保証の責任までカットされてしまたったのであれば、折角連帯保証してもらっていた意味がありません。

 

このように、再生計画は再生債権者が再生債務者の保証人に対して有する権利に影響は及ぼさないのですが、保証債務の時効も、影響を受けないのでしょうか?

この点が争われたのが、東京地判H26.7.28です(判例タイムズ1415号277頁)

ところで、再生計画案の認可決定確定により、時効は計画案の認可決定確定から10年になります。再生計画が再生債権者の保証人に対する権利に影響を及ばないとすれば、この規定も適用がないようにも思われます。

しかしながら、東京地判H26.7.28は、保証人の債務の消滅時効も再生計画案認可決定確定から10年たたないと成立しないとしました。

感覚的には、保証人の責任は保証人に不利に解釈されると考えておいたほうがいいと思います。

このあたりが法律の面白いところでもあり、難しいところです!

せっかく担保を設定したのに、倒産時に主張できない③!?

自動車に対する担保権に関連して、もう一つよく問題になるのが、前々回で申し上げた対抗要件です。

前々回では「登記」を例に出しましたが、「登記」は登記簿謄本を見れば有るか無いかわかります。また、前回ご説明をした「登録」も、車検証を見れば記載があります。このように、書面で確認できる対抗要件は、対抗要件の有無が問題となることはあまりありません。一方で、一般的な動産(簡単に言えば、物です)については、「引渡し」が対抗要件になるため書面で確認できません。

この点が問題となった裁判例として名古屋地裁H27.2.17があります。軽自動車に対して所有権留保を設定していた事案で、担保権設定契約の中に占有改定の条項がなかったのですが、それでも対抗要件を具備した所有権留保といえるかが問題となりました。実は軽自動車も登録制度がないため、占有が対抗要件となります。

そして、占有改定とは、占有は維持したまま、当事者の意思だけで引渡しする方法です。具体的には買主が占有したまま、当事者の意思で信販会社に引渡しをしました(これにより、買主は信販会社のために占有を継続することになります。これを他主占有といいます)。ところが担保設定契約書には占有改定をするという定めがなかったことから、買主の破産管財人Xが、信販会社Yに対して、対抗要件が認められないと主張して提訴しました(厳密には、信販会社が弁済充当したことが偏頗行為否認の対象になるとして破産管財人が提訴した事案です)。

しかしながら、名古屋地裁H27.2.17は、契約書の条項などから、占有改定による引き渡しが認められるとして、管財人Xの主張を認めませんでした。

「引渡し」という、ややあいまいな概念だと、このように争いになることがあります。契約書でカバーできる部分ももちろんありますが、限界があることも否定できません。

 

こういうところが、法律の難しいところですが、面白いところです!